2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

慟哭

誰も起きていない朝だから、僕は一人で公園にいました。 ツナ缶を開けてはそこらにいる野良猫に与えながら、まだ現れない太陽を出来るだけ鮮明に頭の中で描くとそれは何故だか金魚に化けているので、尾びれを掴むとそれもそこらの野良猫に与えました。町はま…

殺菌、滅菌、もういいかい

「グリコ、チヨコレイト、パイナツプル、グリコ、チヨコレイト、パイナツプル、グリコ、チヨコレイト、パイナツプル、グリコ、チヨコレイト、…」 階段を昇る赤いランドセルの女の子達の足音はパタパタという音を立てて僕の部屋を叩くので浴室で血にまみれた…

ビー玉

熱帯魚が泳ぐ水槽に僕はビー玉を雨のように降らせていた。 梅雨が明け、毎日のように見える青空が僕達から水分を奪っていくような日々に、ビー玉を降らせることは僕にとって降らない雨を祈るよりもずっと簡単に心を潤す行為だった。僕は街中のビー玉を買い集…

舌の上のワルツ

八月にもなったのにこの村の朝の温度はまだ零度辺りをさ迷っている。夏の間、僕は毎日毛糸の帽子を被って仔羊を抱き寄せるのだ。 そして僕はポケットから良く研かれたナイフを取り出すと素早く仔羊の舌を切り取る。ナイフは非常に切れ味が良いので、仔羊は舌…

裸電球

病室みたいに真白な電球の灯りの下で君は綾取りをしていた。それはまだ夏が暑さを失っていない頃の話で、だから僕達は扇風機を回していたんだ。 君の毛糸は血みたいな色をしていて僕はそれを見ながら君を引っ掻くことばかり想像していた。どれぐらい経った時…

lust

僕は君の運転する車の助手席でブランケットを掛けて欠伸をしている。ステレオから流れるrei harakamiは更に眠気を誘っている。朝日が見たいなんて君が急に言い出して、だから二人は10月の冷たい朝にまだ空いている道を走っている。僕はぼんやりと前の車の橙…

タマゴと牛乳

銀色のボウルには小さな命ばかり整頓されていて僕はそれらを混ぜ合わせて小さなパンケーキを焼くのです。まだ眠っている彼女を起こさないように小さな光の下でそれは行われるので、僕は何かの儀式に参加しているようなそんな気分になりながらそれを作るので…

羊飼いは夢を見るか

羊飼い達が夢を見ている間にこっそりとポケットにしまっておいた雲を羊とすり替えてしまうんだ。そうするとずっと雨の降らなかったあの町に一年中大雨が降るだろう。 それは最初のうち感謝されて、それから嫌われるけれどそんな事はどうだっていいんだ。僕は…

『昇華』

どろり、と電球から零れる空気を金魚鉢で受け止めると琥珀色の空気は蜂蜜のような美しさで金魚鉢の中に佇むのです。それは夏の蒸し暑い夜で、僕はその空気を屋台で売りに神社へ向かいました。夜道は非常に暗かったけれど金魚鉢一杯の空気は優しく発光して道…

『別離』

街中のものが気化し始めていた。例えばまず高層ビルが消えた。それから電波塔が消えた。それから徐々にマンションやアパートが消えた。その原因は太陽が地球に近付いたからだった。始めの間、科学者達は一斉にその理由を解明しようとしたがそれも長くは続か…