2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

バスルームから愛をこめて

シャワーから流れる甘美な憂鬱で君は白いシャツをびしょびしょに濡らしたまま、ただそこに溢れている音楽を歌っていた。僕はそれを聞きながら、許される時間だけを集めて大事に瓶に閉じこめていた。使い方も分からないような時間ばかり集めて、そこに「安寧…

無題

短いセックスの後で、彼女は小さな嗚咽を漏らして泣いていた。僕は居心地が悪くて、ベッドに腰をかけ煙草をふかしていた。西日が射す狭い僕の部屋はそこだけが世界から切り取られたように鮮やかな橙に染まっていた。澱んだ空気の中で、ボブ・ディランの鳴ら…

夜明け前

まだ日が出るまで少しある。夜が明けるまでに僕は感じたことを全部鍋の中に溶かして、今から起きてくる君の為にポトフを作ろうと目論んでいる。でも、その前に。そう、君の立てる寝息を聞きながら蝋燭の火で、もう何百回と読んだ短い物語を読もう。季節が溶…

パレード

目を閉じる。小さな嗚咽と共に全ては宙を舞い、パレードが始まる。君の大切にしていたものも嫌いなものも、全てが粉々になって空から降る。太陽は容赦なく、身を焼くほどの力で粉塵に光を射す。パチンと指をならし、君は出来る限りの平生さを装ってパレード…

365歩のブルース

ブランケットに包まって、少女は爪を噛みながら白み始めた空を眺めている。ラッキーストライクの煙が網戸をすり抜けて、空に溶けていく。ヘッドフォンからはeastern youthが流れている。少女は両の目を空に向けて、探している。とても小さな、絶対の安寧を。…

りんご飴

私は強くなるの、 彼女は下唇を噛んでそう言う。風景すら透けてしまいそうなその白い肌に不釣り合いな真赤な唇が、ついている。僕は何も返事をせず、瓶に入ったジンジャエールを飲む。

青い目のジジ

ジジには2つの目があって、その両の目は濃いブルー。 僕はその目が見たくて何度もジジを家に招いては食事を作った。僕はあんまり料理が上手じゃないけれど、それでもジジは美味しいって食べてくれた。 僕は何も返事をせずにチラチラとジジの目だけを見てい…