2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

shocking pink

人の少ない深夜の海にはパスポートの無いフラミンゴの大群が毎晩入ってきて、国境を跨いだ瞬間に待ち構えた保安官に一斉に撃ち落とされるからショッキングピンクの朝焼けが毎朝、街中を包む。だから僕らはいつだって着色料みたいな甘ったるい原色の中で珈琲…

ミソラ

柔らかいローソクの火に余らせていた憂鬱をそっと溶かすと家の中では雨が降り、僕の大切な手紙を全部びしょびしょに濡らしてしまった。 僕は余計に悲しくなってベランダに出ると、どんよりとした星の無い夜空が僕を待っていた。 僕は仕方なくアコースティッ…

空の下

ある日の夜、感傷的だった僕は両親が寝静まったのを見計らって家を抜け出し近所の湖に行った。水面に何度も石を投げていると、岸に白い少女が倒れているのを見つけた。 少女は何も纏っておらず、ただ月光の照らす白い肌ばかりが目立っていた。僕はその透き通…

ワイパー

車のワイパーはスライドを繰り返して幾つもコードを紡いでいる。 助手席の彼女はそれに合わせて即席のメロディを歌っていて、僕はその小さな体の何処にそんなに素晴らしい楽器が埋め込まれているんだろうか、なんて考えながら運転席でそれを聴いている。彼女…

砂漠の住人

月が発光を止めた午前四時半、新宿には剥がれ落ちた月の表面が何層にも降り積もって一面が真白になっていた。 そのせいで新宿は都心としての機能を殆ど失っていて、だから誰もいない真白な街には背の高いビルが樹木のように立っていた。―――とにかくそれは寒…

水槽の日

死んじゃった熱帯魚を庭に埋めた日の夜、外は大雨で僕らの町は水槽みたいに水の中に沈んだ。だけど優秀な僕達は慌ててえら呼吸に変えたから誰一人溺れなかったよ。 それで僕達は大人が誰も居なくなった町をすいすいと泳いで玩具屋に集まり、カラフルな玩具ば…

トカゲ

寒さで縮んだトカゲの尻尾を湯船に入れるとそれは膨らみ始めて、やがて真赤な風船になった。 僕はそれを眠っている恋人の小指に縛りつけると満月の夜空に飛ばした。僕は飛んでいった恋人の分だけ軽くなった家に物足りなさを感じて空っぽの浴室で泣いていた。…

chil chill michilll

三拍子じゃない三拍子の音楽が小さく流れるサーカス小屋で、金魚が火を食べて真暗な小屋を煌々と照らしている。髪を切ったせいで風邪を引き寝込んでいる僕の恋人の頭の中にはバニラの匂いが残っていて、眠れなくて退屈な僕はただ朝が来るまでサーカス小屋で…