2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ドット欠け

彼女は右目の小さなドット欠けを気にしながら喫茶店のソファに腰を掛けると、店員を呼びサラダ油を頼んだ。 早くお医者にかからなくちゃ、と思いながらハードカバーの本を開くと羅列された英字に目を落とした。 彼女には既に三十二の言語がインプットされて…

FLy

安いアパートに住む痩せた少女の背中には羽根が生えていた。それは少女が十七年間、毎晩のように願い続けてようやく手に入れた理想の羽根だった。それは牛乳のように白く、そして少女を包むほど大きかった。少女はその羽根が生えた朝、朝食を食べ終えると羽…

眼球

彼女が猫のように僕の足の甲を嘗めている間、タイマーは「ピピピピピ…ピピピピピ…ピピピピピ…」と甲高い声で鳴いていた。それがやがて鳴き止むと彼女はキッチンへ行って二人分の伸びきったパスタにトマトソースをかけて僕の所へ持ってきた。 僕らは「いただ…

アリス、来日

アリスは金魚鉢を覗いていた。昨日から日本の家庭にホームステイしているアリスには見るもの全てが新鮮だった。 「そろそろ寝たほうがいいわよ、明日は朝から出掛けるから」とおばさんが言うので「分かりました、でもあともう少し金魚を見たいの」とアリスは…

食卓

「いちたすにーたすさんたすよんたすごーたすろくたすななたすはちたすきゅーたすじゅーたすじゅーいちたすじゅーにたすじゅーさんたすじゅーよんたすじゅーごたすじゅーろくたす…」と呟く妹の声は次第にかすれていき仕舞いには伸びきったテープのようになっ…

灰色

食器の中には鈍色の釘がたっぷり入っていて彼女はそれを口一杯にして飲み込みます。それから僕に微笑みます。首筋には口から溢れた血が赤く線を描いてます。僕はそれを指でなぞっては口へ運びます。それは鉄の味がして僕は屋上へ通じる錆びた扉を思い出しま…

アルビノの白い肌

英字新聞に包まれて君は16階から落ちて来たんだよ。僕は何となく君を受け止めて、浴室で丁寧に洗ってから乾かしたんだ。その日は震えるほど寒くて、だから色の無かった君は自然と雪のような白になったんだろう。僕らは寒くて、だから小さくなって一緒に眠っ…