2011-01-01から1年間の記事一覧

左眼

ぼうっと浮かぶ太陽をぼんやり眺めている。外で洗濯物がカタカタと揺れて、ソーダの入ったグラスは表面にびっしりと水滴をつけている。無菌室のように生きている感覚の無いこの部屋には空調の無機質な風が良く似合っていて、僕はきちんとこの部屋で君の帰り…

ブルーにこんがらがって

窓の外の観覧車を眺めながらいつまでも羊の数を数える。時折、観覧車に乗っている人達が僕に手を振ってくる。 僕は目をそらすと、もう眠ってしまった君の頭を三回だけ撫でて目を閉じる。窓の外で回る観覧車を瞼の裏で綿密に描いて、悪い夢を遠ざけている。 …

羽化

パンの焼ける匂い、 朝焼けが酷く眩しく部屋に差し込む。僕は眠い目を擦って、キッチンに目をやる。 誰もいないキッチンでは、まだ微かに残された夜が小さく鳴動している。淋しげにカタカタと青い灯を灯している。

爪を切る

少年は切りそろえた爪を月の光のもとで丁寧に調べると、カーテンを閉めて熱い珈琲を飲んだ。ベッドサイドの机の上には真新しい葉書と綺麗に削られた鉛筆が置かれていた。 少年は朝を迎えるための幾つかの個人的な儀式を終えると、物語を終わらせるために眠っ…

湖畔に咲くか、

ボートの中で爪を噛む。少年はオールなんてとうに破棄してしまった。波に揺らぐ感覚は少年を絶対的に安寧させている。空と湖はどちらもたっぷりと星を散りばめていて、境目も見つからないほどに親密に溶け合っている。 少年は帰り方を忘れてしまっていたけれ…

郷愁

白い煙を吐く。 僕は夜が寝静まるのを待ちながら、ベランダで船の数を数えている。灯篭のように流れて消えるそれを数えている。 遠くにサーカス小屋が見える。火の輪に使うオイルの匂いが風に乗ってベランダまで流れてくる。僕は何も思わないふりをしながら…

lolita

少女は目を擦りながらベッドサイドに手を伸ばし、煙草に火をつける。外はまだ暗く雨が降っている。夢現の間で少女は煙草を吸い終え、キッチンに行くとコップ一杯の水を飲んで欠伸をする。蛍光灯が単調な光を垂れ流し、部屋は退屈そうに照らされている。鏡に…

''telephone''

ドラマーが静かにカウントを始める。とてもゆっくりとしたビートで。「1、2、3、…」目を開く。タクシーのテイルランプが細く夜霧の中に吸い込まれていく。海の匂いが微かにする。近くで海猫が鳴いている。静かに佇む凪の中で僕はするべきことを思い描く。や…

バスルームから愛をこめて

シャワーから流れる甘美な憂鬱で君は白いシャツをびしょびしょに濡らしたまま、ただそこに溢れている音楽を歌っていた。僕はそれを聞きながら、許される時間だけを集めて大事に瓶に閉じこめていた。使い方も分からないような時間ばかり集めて、そこに「安寧…

無題

短いセックスの後で、彼女は小さな嗚咽を漏らして泣いていた。僕は居心地が悪くて、ベッドに腰をかけ煙草をふかしていた。西日が射す狭い僕の部屋はそこだけが世界から切り取られたように鮮やかな橙に染まっていた。澱んだ空気の中で、ボブ・ディランの鳴ら…

夜明け前

まだ日が出るまで少しある。夜が明けるまでに僕は感じたことを全部鍋の中に溶かして、今から起きてくる君の為にポトフを作ろうと目論んでいる。でも、その前に。そう、君の立てる寝息を聞きながら蝋燭の火で、もう何百回と読んだ短い物語を読もう。季節が溶…

パレード

目を閉じる。小さな嗚咽と共に全ては宙を舞い、パレードが始まる。君の大切にしていたものも嫌いなものも、全てが粉々になって空から降る。太陽は容赦なく、身を焼くほどの力で粉塵に光を射す。パチンと指をならし、君は出来る限りの平生さを装ってパレード…

365歩のブルース

ブランケットに包まって、少女は爪を噛みながら白み始めた空を眺めている。ラッキーストライクの煙が網戸をすり抜けて、空に溶けていく。ヘッドフォンからはeastern youthが流れている。少女は両の目を空に向けて、探している。とても小さな、絶対の安寧を。…

りんご飴

私は強くなるの、 彼女は下唇を噛んでそう言う。風景すら透けてしまいそうなその白い肌に不釣り合いな真赤な唇が、ついている。僕は何も返事をせず、瓶に入ったジンジャエールを飲む。

青い目のジジ

ジジには2つの目があって、その両の目は濃いブルー。 僕はその目が見たくて何度もジジを家に招いては食事を作った。僕はあんまり料理が上手じゃないけれど、それでもジジは美味しいって食べてくれた。 僕は何も返事をせずにチラチラとジジの目だけを見てい…