海岸沿い

誰もいない海岸沿いのベンチで煙草に火をつけ、僕は殆ど意味を成していない街灯の明かりを頼りに真新しい本の一ページ目を開く。

物語は僕の知らないところで始まる。僕の知らない人の未来のように、確実に、そして決して交わることなく。僕は殆どの文字を認識もできずに本を閉じた。本の中では、物語の登場人物が話を始める。巻かれたオルゴールのように、静かに動き始めている。しかしそれは、僕に向けられたものではない。

僕はほとほと嫌気が差して、海岸にそれを置くとライターで燃やす。本の中の言葉はパチパチと音を立てて、風に乗ってはどこか遠くへ飛んでいく。

言葉はただ、夜空を照らすには余りにもか弱く、僕は真暗な海岸で二本目の煙草に火をつける。