2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

さかさまの夏

右と左が別個の夢を見る、もう夜が明けなくてもいいように白い触手伸ばす太陽の首に柔らかな手をかける。左右の目を入れ替えたとして見る景色が同じだとしたら、僕はもうこの町から出ないといけない。けど、まだ眠くて動けない。僕の未来が脆弱だとして、そ…

たとえばこんなストーリー

アイコは電話をする、 誰に?恋人に。 ようやく仕事を終えた彼女に対して恋人の言葉は生命の通っていないような無機質な言葉だった。「おつかれー、煙草切れたから途中のコンビニで買ってきてよ。」そうして会話は終わる、唐突に。 アイコにとってそれが電波…

無題

規定数の風邪薬が彼女の体に浸透していく。夜は深く、まだ明ける気配はない。 彼女はこほこほと咳をする。その度に視界が歪む。彼女は残り僅かな体力で煙草に火をつける。煙草の煙は彼女の視界を具現化しているかのようにたゆたい、それから換気扇の中に吸い…

hear the wind song.

この町に静かに吹く風の中で、微かに君の息づかいを感じる。僕は思うのだ、 「嗚呼、君はこの世界のどこかで生きているのだな」と。その思いは僕の足を動かすだけの力になる。夏の暑さにやられて変性した有機的な愛が、この町に住む僕を歩かせる。どこかの路…

by the way

一体何人が僕の道を通り過ぎただろう、一体何人が僕の道を通り過ぎていくのだろう、君の通いつめた部屋も今ではもう冷たい雨音を響かせるだけの空間になっていて、僕は換気扇の前で静かに煙草に火をつけて、それから眠る。時々夜が寂しげに僕に語りかけてき…

無題

がたん、と小さな音を立ててどこかで何かが外れた。僕の世界は唐突に壊れ、それでも動いている。パラノイアは僕にいつだって小さな夢を見せてくれる。もちろん、それはすぐに裏切られるけれど。僕の夜はもう死んでいるのだ、そこら中の道端で血を流して。窓…

安寧

僕ら捨てられちゃったみたいにどこにも居場所がないね、 安寧もない、 秩序もない、それは僕がそれを求めていないからなのかな。グラスの中、沈んだ船から悲鳴が聞こえて僕はスニーカーの紐を結ぶ。 解けてしまわぬよう、きつく結ぶ。

翳る、

僕は狭い部屋の中で溺れていたい、気泡を吐き出しポコポコと音を立てる様はまるで神秘のように、僕は1人ぼっちでこの世界を閉じる。 一冊の愛おしい本を閉じるような優しさで、愛で僕はこの世界を閉じる。 ホッチキスまみれの愛で塗りつぶされてしまわぬよ…

まちぼうけ

トパーズから海の音が聞こえて、僕はすぐにでも夏に帰りたくなる。鈍行列車に乗って海に行こうか、ただ過ぎる時間をのんびりと目の回るような時間の中にぽつりと佇む静寂の中で君と僕が同時に欠伸をする。 欠けたトパーズから海の音がする。夏はもうすぐそこ…

いつかの夏の始まりについて

金魚鉢の向こう側で赤が舞っている、 夜が小さく瞬いて線香花火みたいだなあって君が呟く。僕はじっとりと濡れた町の空気にやられてベッドに座りこみながら、ぼんやりと夜の隙間で深呼吸をする。 夜ももうすぐ終わっちゃうね、って君が言うから僕は「うん。…

ねむいよ

ねえ、僕はもう眠いよ。また明日、って言って眠ろう寝ても覚めても夢のようだ君がいるなんて、 君がいないなんて、ねえ、僕はまだ眠いよ。まだ起きたくないんだ朝が来ても夜がきても君が来るまで眠っていようかな、 なんて思ってももう眠れなくて起きる。

ドロップ

歩道の小石蹴って、冥王星よりずっと奥の見たことない星を見に行こうよ。空き缶みたく空っぽな雨だ。僕らの足を止める程の力はない。月がなくなって歩道を照らす光がなくなったって、僕らはもう迷わないよって言って歩く。 冷たい手と手を繋いで歩く。 6月…

どこ行く足

千切れた影を縫って、びよんと伸ばしたら月まで届いた。 でも僕は月まで行く気力なんて無くて、今日も履き古したスニーカー履いて近くのコンビニエンスストアまで歩く。 魔法の靴も月の光もない6月の僕にはコンビニエンスストアの薄いビールとハーフベーコ…

瞳の奥の名を

僕は君に名前をつけたい。形も色も関係なく、空に漂う雲のように流動的な名前をつけたい。瞳の奥だけをじいっと見つめて、君の求めている名前で君を呼ぼう。誰にも知られていない、秘密の暗号みたいな名前を呼ぼう。

夜を食む

君が同じ姿勢で煙草を吸うなら何を思うかなあ、 何にもないようなこの町で僕は何かを得て何かを失ったのだ。まばたき一つでこの夜を越えられたら君に何を伝えられるかな、どうでもいいことの中にそっと大切なものを詰めて君に与えられたらなあ、 僕は眠気の…