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安いアパートに住む痩せた少女の背中には羽根が生えていた。それは少女が十七年間、毎晩のように願い続けてようやく手に入れた理想の羽根だった。それは牛乳のように白く、そして少女を包むほど大きかった。

少女はその羽根が生えた朝、朝食を食べ終えると羽根を隠すこともなく学校へ行き授業を受けた。他の生徒や先生達の冷たい視線は、今や完璧となった彼女を傷つける理由になどならなかった。彼女はそうしてきちんと一日を過ごした。そして寝る前にベランダへ行き、月を眺めた。
「やっぱり…。今日ほど完成された日は無いわ。」
それは彼女の求めていた完全な満月だった。
彼女は手すりに座ると羽根を広げた。六階に吹く風は夏だというのに、やけに冷たかった。
彼女は軽やかに手すりを蹴った。満月に向かい飛んだのだ。

しかし、彼女の羽根は形としては完璧だったが羽根としては不完全だった。つまりただのイミテーションだったのだ。

結局彼女の羽根が風を捕らえる事はなく、ただ一階に赤色が広がるだけだった。