アリス、来日

アリスは金魚鉢を覗いていた。昨日から日本の家庭にホームステイしているアリスには見るもの全てが新鮮だった。

「そろそろ寝たほうがいいわよ、明日は朝から出掛けるから」とおばさんが言うので「分かりました、でもあともう少し金魚を見たいの」とアリスは答えた。
「分かったわ、でももうあと10分ね」とキッチンのほうからおばさんが言うのをアリスは聞いていなかった。

アリスは別に日本語を勉強したわけでは無かったが、小説の中の人物なので日本語が話せることになっていた。
アリスは金魚鉢の中の金魚を眺めながら何と無くしりとりを始めた。

「金魚、夜、ルビー、ビー玉、マント、トランプ、…」


しりとりを始めてからずっと金魚鉢を覗いていたせいでアリスには時間がどれほど経ったか分からなかったが、実はそれはちょうど250年後の春の事だった。
「…ア、アジスアベババスティーユ牢獄、グルココルチコイド」と続けた時にグルココルチイド
の「グル」で金魚が右回りにぐるりと一回転したのをアリスは見逃さなかった。

アリスはしりとりを止め、「ぐる」と呟いた。すると金魚もそれに合わせて金魚鉢の中を右回りに一回転した。
次にアリスが「ぐるぐるぐるぐ」と言うと金魚は右回りに三回転半した。楽しくなってアリスが
「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ…」
と言うと金魚鉢は渦になってアリスを飲み込んでしまった。アリスはそれから金魚鉢の中を冒険するのだが、それはアリスだけの世界だったのでここに記すことは残念ながら出来ない。