2009-07-21から1日間の記事一覧

ビー玉

熱帯魚が泳ぐ水槽に僕はビー玉を雨のように降らせていた。 梅雨が明け、毎日のように見える青空が僕達から水分を奪っていくような日々に、ビー玉を降らせることは僕にとって降らない雨を祈るよりもずっと簡単に心を潤す行為だった。僕は街中のビー玉を買い集…

舌の上のワルツ

八月にもなったのにこの村の朝の温度はまだ零度辺りをさ迷っている。夏の間、僕は毎日毛糸の帽子を被って仔羊を抱き寄せるのだ。 そして僕はポケットから良く研かれたナイフを取り出すと素早く仔羊の舌を切り取る。ナイフは非常に切れ味が良いので、仔羊は舌…

裸電球

病室みたいに真白な電球の灯りの下で君は綾取りをしていた。それはまだ夏が暑さを失っていない頃の話で、だから僕達は扇風機を回していたんだ。 君の毛糸は血みたいな色をしていて僕はそれを見ながら君を引っ掻くことばかり想像していた。どれぐらい経った時…

lust

僕は君の運転する車の助手席でブランケットを掛けて欠伸をしている。ステレオから流れるrei harakamiは更に眠気を誘っている。朝日が見たいなんて君が急に言い出して、だから二人は10月の冷たい朝にまだ空いている道を走っている。僕はぼんやりと前の車の橙…