世界

どこ行く足

千切れた影を縫って、びよんと伸ばしたら月まで届いた。 でも僕は月まで行く気力なんて無くて、今日も履き古したスニーカー履いて近くのコンビニエンスストアまで歩く。 魔法の靴も月の光もない6月の僕にはコンビニエンスストアの薄いビールとハーフベーコ…

瞳の奥の名を

僕は君に名前をつけたい。形も色も関係なく、空に漂う雲のように流動的な名前をつけたい。瞳の奥だけをじいっと見つめて、君の求めている名前で君を呼ぼう。誰にも知られていない、秘密の暗号みたいな名前を呼ぼう。

夜を食む

君が同じ姿勢で煙草を吸うなら何を思うかなあ、 何にもないようなこの町で僕は何かを得て何かを失ったのだ。まばたき一つでこの夜を越えられたら君に何を伝えられるかな、どうでもいいことの中にそっと大切なものを詰めて君に与えられたらなあ、 僕は眠気の…

泣いちゃいそうだ、

僕を照らした電球はいつの間にか割れていて、それでも柔らかそうで、破片に手を伸ばしたら 手が切れて血が出た。温かな鮮血を水道水に溶かしながら、いつの間にか僕は泣いていた。

さよなら半月

中野から高円寺まで煙草すいながら歩く 少しの眩暈と一緒に歩く空には半月で、時々疲れ顔した人達乗せた中央線が嫌に明るい色で走ってく。その中に君がいても気付かないぐらいの速さで走ってく。「さよなら半月、また来て2月」僕 メロディーもリズムもない…

「君は誰を好きかい?」

雨のあとの晴れた日には、何でも許してしまえそうになる「言えなかった言葉をするりと言えそうで」 そんな歌もあったな、僕はまだそこにいるかい、目をこらして見つけてくれよ。今ならどんな歌でも歌えそうなんだ。欠伸のあとの柔らかな午後の日差しの中で僕…

最良の日の為に

いつだって僕達の明日は良き日なのだから、今日はこうして泣くのだろう? 目隠しして歩いた先に僕がいなくてもどうか悲しまないで欲しい君の明日は良き日なのだから、 ちゃんとその準備をするんだよ道の先の橙色した光をこぼさないように目隠ししてても真っ…

夜間飛行

眩暈の中で夢を見た、 足元の覚束ない5月の終わりに何を歌おうか僕は瞬きの中で夢を見たとても優しい とても温かな目を開けて、その夢が終わった時僕は少し泣いて それから蛇口ひねって一口、水を飲んだもう終わろうとしている5月の片隅で何を歌おうかとて…

白痴ごっこ

君の泣いてる理由が嫌なぐらい分かるから、僕は笑いながら何も分からないふりをした。僕達こんなに悩みながら、それでも最後は決まって死んでしまうのだからだったら出来ることがあるはずだ。終わりがあることは悪いことじゃない。いくつでも失って、それで…

君の帰りを待つ足

もうちょっと、 あとちょっと、 僕は死んだのだ。唐突に。歩み寄った足は回れ右して帰る。僕はいないのだ。この水槽に。この水温の中で死んでしまおう。唐突に。突然に。 そして「また明日」歌いながら、遊ぶ。 一人で遊ぶ。 影踏んで遊ぶ。 気付けば1組多…

short film

擦り切れたビデオテープ、フィルムの中の君が手を振る。霞んで見えない逆光みたいな景色の中、君が笑っているのか泣いているのか分からなくて目を細めるけど、暗くて何も見えないよ。短い映画はそこで終わる。ハッピーでもバッドでもない終わりが僕らの前に…

crawl

何もかも少し前のことなのに、 何もかも全て遠い写真の一枚でもあれば何もかも思い通りの元通り、なんて風に上手く出来てはいないけれど何故だか何一つ上手く思い出せない、 暗くて深くて広い海をあとどれだけ泳げば君んちのドアをノック出来る、もうない、 …

悲しくて泣いた、 僕の左手はもう君の右手とは結ばない 今はただ時間が早く流れてこの気持ちを押し流すのを願うことしか出来ないのに深い夜が来ても眠れず、 僕は残酷なほどゆっくり流れる時間の中で心から温かな血を流す。 君の横で何気なく笑う僕はここか…

足音立てて歩こう

僕らバタバタ足音立てて、せわしなく絶えず歩いて なのに見える景色はあの日よりずっと霞んだ夜の中、至るところで死神が手招きしているようなそんな毎日を歩き続けている。時々は誰かと手を繋ぎ、時々は一人で、僕らは歩き続ける。どんなに寂しくても、どん…

10.05.20 01:26

僕が電気を消して瞼を閉じる間に、世界もそっと終わればいい。それがどんなに小さな世界でも小さな僕には広すぎるから。 雨の降る夜は、いつだってあの歌を思い出すよ。 雨がいつか止むのなら、今日は雨のことばかり考えていても良いと思うのだ。 雨が降る、…

無題

パンドラの箱だって開けてしまいそうな、そんな退屈な夜だったから、僕は鼻歌一つで何とか世界にしがみついていた。歌わなくちゃ振り落とされそうな、忘れ去られそうな、そんな夜だから僕は朝になるまでずっと歌っていた。 喉が枯れて血を吐いてでも、君から…

apartment

「雨が上がったからもう行かなくちゃ」と少女は言った。僕は頷こうとしたけれど、何故だかそんな事すら上手く出来なくなっていて、気付いたら少女は居なくなっていた。 僕は伸びっぱなしだった髪を結うと、一杯になっていた郵便受けの中に潜り込んで、広告だ…

under the sun

晴れた朝には花の種を手のひら一杯に掴んで蒔くのだ、君に叱られるまでずっと蒔くの。朝も昼も夜も通り越して、足が壊れて使いものにならなくなっても、君の声がするまでずっと。やがて最初に蒔いた種が育って柔らかな芽を出して、それからゆっくりと年月を…

飛べない翼〈alt ver.〉

痩せてる彼女の背中には羽根のタトゥー。機嫌が良い時だけ見せてくれるそれは天使みたいな大それたんじゃなくて、飛ぶにはあまりにも小さすぎる羽根。 でも一本一本違う色してて綺麗だったから、いつだったか「これをパレットにして絵を描いたらどんな人でも…

無題

手足の冷たい少女は秋の夜のアスファルトみたいな温度でベッドに寝そべっては煙草をくゆらせていた。ふと頭の奥でぜんまいを巻く音がした。ぎぎぎぎ、と一定のリズムで鳴った。それは時々心音のように少女を小さく揺らしたが、それが少女に大きな変化をもた…

pianissimo peche

君の帰った部屋はとても寒くて、君が換気扇の下に忘れていったタールの少ない煙草に火をつけて君と同じ位置で吸う。二人分のパスタを作るガスコンロの火が手に持つ煙草に火をつけて、僕の感傷は緩やかに加速する。君が煙草を吸いながら考えている事だとか君…

テレビばかり見てると馬鹿になる

テレビの砂嵐が二人の性交をフィルムの向こう側に押し込めている僕らは演技でもするようにマッチでつけた蝋燭の火の中、愛を確かめ合ったけど結局その行為のどの辺りが愛なのか二人は最後まで分からなかっただから朝起きて僕らはパンケーキの匂いの中で永遠…

シベリアのトマト

君のトマトみたいに熟れた大脳を一つ残らず食べてしまいたい。 それから僕は晴れた日のシベリアを想像して水彩画を描くのだ。酷く混乱したシベリアの空は虹色に歪んで、それでも何とか晴天でいるから僕は真黒な傘さして晴天気取りの天気にとどめを刺してる。…

プラネタリウムの塵

君の皮膚でパッチワーク、夜に溶けこめるように赤黒いワンピース作ってあげるから春の風に乗って満月を盗んできておくれよハニー。そしたら僕はオーブンで月の石でも焼いて、星座でも作ろう。 君の視力なんて使い物にならないし星空なんて天井のカビ程度にし…

tired of TV

君の口から垂れた血を甘いキャンディのせいで緑に染まった舌で舐め回すそれから静脈みたいに鬱屈した青の住む夜空をお気に入りの長靴履いて歩こう雨が降ったら僕ら簡単に溶けきってしまうから そうならないようにきちんとレインコートも着てね おやすみ、っ…

アマレット

僕達を置き去りにして雨は降り続けるから水槽は水嵩が増え、やがて溢れたグラスの中、泳いでいた熱帯魚は餌と勘違いして僕達の目を食べちゃったから アマレットジンジャーの匂いのする部屋で僕達はアルコール飲んだみたいにふらふら踊ったそれから深海みたい…

無題

バランスを失って墜落する鴎、スロウモーションで撮る。何度も何度も何度も、出血多量で海が赤くなるまで。君の脳みそ噛み砕いて、記憶の隅々まで嘗め回そう、トラウマなんてとても美味。 深呼吸して?深い深い海まで沈めるからもう二度と帰ってこなくていい…

無題

咳をするたび息が白く濁る。1月の重苦しい朝に、僕はチョコレートを一欠片ほど口に入れながら立っていた。 そこは海だった。 白み始めた空はまだ透明度が低く遠くの島どころか近くの船すら映し出さなかった。 それでも僕はそんな景色を眺めながら深呼吸をす…

室温

言葉ばかりが部屋を埋めていくのに耐えきれず、君は2月の冷たいベランダで星のない夜空ばかり眺めていた。 それから煙草に火をつけて小さな雲を作っては誰も知らない場所に小さく雨を降らしているのだ。僕はそれに気付いているのにストーブの前でごほごほと…

風葬

金魚鉢一杯のガムシロップの中には嘘だとか蜃気楼だとか高層ビルだとかが一緒くたに入っているけれど、強い陽光のせいでどれも境界線を無くして混ざり合ってしまっているから、僕が小指でかき混ぜてからもう一度君の世界を作り直してあげる。新しい世界はき…