pianissimo peche

君の帰った部屋はとても寒くて、君が換気扇の下に忘れていったタールの少ない煙草に火をつけて君と同じ位置で吸う。

二人分のパスタを作るガスコンロの火が手に持つ煙草に火をつけて、僕の感傷は緩やかに加速する。

君が煙草を吸いながら考えている事だとか君が見てきた不可侵の記憶、僕の知らない君の世界はまるで僕を欠いて漸く完結したように美しかった。


煙草がなくなってしまうまで僕はそんな事を考えて、それから70分かけて離れていった君の声が聞きたくなって眠っているかな、と思いながら電話をするのだ。