無題

手足の冷たい少女は秋の夜のアスファルトみたいな温度でベッドに寝そべっては煙草をくゆらせていた。

ふと頭の奥でぜんまいを巻く音がした。ぎぎぎぎ、と一定のリズムで鳴った。それは時々心音のように少女を小さく揺らしたが、それが少女に大きな変化をもたらせるような事はなかった。

少女はぜんまいが巻き終わるのを待ってから小さく一つ欠伸をして、それから金魚鉢の中の金魚に一摘みの餌を落とした。金魚はそれを勢いよく食べた。

それからまたベッドに戻るとぼんやりと煙草を吸った。すると天井から何かが降り始めた。少女は雨漏りかと思い、天候を確かめるために久しぶりにカーテンを開けた。しかし、外は水の中みたいな青空で、そこで少女は漸く自分の役割を理解して天井から降る餌を食べた。それは少女が少女でいられる最後の日だった。