2009-06-28から1日間の記事一覧

『孤独』

舌の上に乗せるとそれは優しく溶けていった。ヘッドフォンを通すとそれは心音のようだった。 言葉にするとそれは酷くつまらなくなった。 孤独は、ただ温かな浴槽のようにそこにいた。

『儚』

彼は電車に乗るとよく泣いてしまう。それは最重要文化財みたく美しい電車の窓をこする夕日のせいでは無かった。 彼はいつだって人の死が見えていた。 それを伝えるのは匂いや音や手触りや、色でも無かった。 例えばそれは風のようにそっと彼に近寄るのである…

『真』

二月の或る朝、彼は息苦しくて道に座り込んだ。愛想の無いモッズコートは彼の口を覆って更に息苦しくした。 つい昨日まで晩御飯をあげていた猫が道路で死んでいたのだ。 その猫はいつだって傷だらけだった。きっと色々な所から餌を盗んでいたからだろう。彼…

『芽』

ゆっくりと目を開けるとマッチで蝋燭に火をつけ、僕はごほんと咳をする。 息は白く濁って、まだ二月だと言うことを僕は実感しながらキッチンに向かう。キッチンには昨日作ったまま置いてあるポトフがあるので、それを加熱しながらガスコンロの火で煙草を吹か…