『儚』

彼は電車に乗るとよく泣いてしまう。それは最重要文化財みたく美しい電車の窓をこする夕日のせいでは無かった。


彼はいつだって人の死が見えていた。
それを伝えるのは匂いや音や手触りや、色でも無かった。
例えばそれは風のようにそっと彼に近寄るのである。そうしてその風が心を貫通すると決まって誰かが死ぬのだ。
だから風を感じると彼は否応なく涙が出てしまうのだ。


彼はきっと今日も泣くだろう、僕が飛び込むその車両に彼は乗っているのだから。