クリケットの向こう側

公園では少年少女の行うクリケットの音がパタパタと鳴っている。


まだ空は薄暗く、息も濁るほどの早朝で

大人達は朝の純潔さに恐怖するように部屋に籠り紅茶や珈琲を飲んでいるのに、子供達はと言えば何も知らずにただ公園にパタパタという音を響かせているのである。

僕はと言えば同い年の子達の行っているクリケットに参加するでもなく、ただベンチに腰かけて『日々の泡』を読んでいるだけなのでその公園に居て居ない存在となっていた。


僕が夢中になって小説を読みふけっているとパタパタという音はいつの間にか止んでいた。気づいて顔を上げると公園はすでに真暗な闇に包まれており、チカチカと切れかけの電灯が少し明かりを残している程だった。
暗闇の中をよく見ると、さっきまでクリケットを行っていた少年少女の両親達がずらりと並んで僕を見てニヤニヤとしている。

一番前の男が大きな口を開けて僕に言うのである。

「夜にようこそ。」